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心の病であるギャンブル依存症・・・
パチンコ業界が果たす役割とは?
求められる体系的
「依存症」への道筋

(平成15年12月8日 東京都文京区後楽園ホテル6階サロン「ルネ」にて)

現状認識と従業員教育

本誌
この依存症問題を考えるうえで、今までのお話を伺った限りでは、その発症をできるだけ抑止していこうという方向性と、依存症にかかってしまったあとのケアをどうするかというふたつの方向性あるように思われます。研究会の方向性は、現在のところどちらに向いているのでしょうか。
米田
そうですね。ただ、なにぶんにも依存症の方に直接業界が手を差し伸べて、それが受け入れられるものかどうかというようなところもあるでしょうし、間接的にしろ業界がすべきことを見出しながらやっていかないことには、ただ単にアンケートなりレポート作成しただけのもので終わってしまったのでは何の意味もないと研究会では認識が一致しています。
力武
それと啓蒙活動だと思いますね。やはり業界内にはこの取り組み自体が損になる、自らの首を締めるという誤解が大変多いと思います。私も3年前から「ワンデーポート」への連絡先を書いたポスターを店内に貼っておりまして、何名かの方が「ワンデーポート」に相談電話を入れています。これを世の中のパーラー全てに貼った時におそらく相当数の依存症の方が表面に浮かび上がってくると思います。

それは、よく私たちの産業の社会的認知というようなことが言われますが、本当の意味で社会に受け入れられるということは、弱者といいますか、その産業自体が生み出す負の部分にも勇気をもって取り組むことが大切だと思います。実はそのことによって営業的に足を引っ張られることは何ら無いわけです。むしろ逆に世論はそのような活動に対して評価するでしょう。依存症問題に取り組むことがマイナスにはならないことを知ってもらいたい、そのうえで各オーナーさんに判断してもうらうことが極めて重要になると思います。
本誌
依存症罹患者へのケアを推進するのと同時にこのことの意義を広く業界に定着させることが急務だとのお考えですね。一方、啓蒙といえば社会一般に向けた活動も大切になると思いますが、この点加藤教授はいかがですか。
加藤
現在私は都遊連からギャンブル依存症についての研究を委託されていますが、都遊連に何らかの形で提言できればと思っていることは、今はインターネットが非常に普及してますから、インターネットでパチンコ依存症の啓蒙やまだ依存症にはなっていないけれどこれ以上進んだらよくないと思う人がアクセスできるようなサーバーを作っておくとか、そういう人たちが依存症にならないで済むプログラムを作ることが求められているような気がします。それは携帯からもアクセスできるような形にするなど、簡単にアクセスできるようなものを作っておけばそれなりに意味のあるものができるんじゃないかと。また、アメリカのギャンブル場では従業員の教育に非常に重きを置いているんですが、従業員がギャンブル依存症について知識を持つように教育訓練をしている。つまり、従業員自身が依存症になると業界全体のイメージダウンになるからで、だから、従業員の教育というのを非常に熱心にやっている。
本誌
従業員に対する教育という指摘がありましたが、この点につきましては先ほど中村さんかの方からカジノの従業員の15%が依存症にかかっているとの報告がありました。従業員がギャンブル依存症となった場合に当然お金が必要になりますから、ゴト師と手を組むなど弊害も大きいと考えられます。依存症と従業員という切り口でどうでしょうか、研究会ではまた議論は進んでないんですよね。
米田
まだ議論されてないですが、確かにこの機械の性能がゲーム性に富んでいるかどうかは従業員の中で好きな人がいて、その社員と店長あたりが展示会に行って試し打ちをしてゲーム性があるとかないとか、たぶんどのパーラーでも調べていると思うんですね。それをもとにして機械の導入を検討していますからね。ですが、それはあくまでも仕事の範疇のことですから、マニアにはなっても、依存症罹患者となるケースは圧倒的に少ないのではないでしょうか。
中村
確かにそうですね。しかしこの問題で深刻なのは絶対にそうだとは言い切れないところにあると思います。依存症罹患者でも仕事をきちんとこなす人はたくさんいるのが現状です。

米田:仕事の時は全然そうじゃなくて、その合間で。でもお金が続かなくなるのでは。

それで財産を切り崩したりして家族が泣いてるんですよ。だから、会社には言えないんです。依存症になるのは理屈ではないんです。要するにパチンコを打つ機会があるということは、単純に依存症になりやすい環境にあるということであって、パチスロの設定などの知識があるということでかえって「俺は大丈夫」と思う人こそ依存症になりやすいのです。
一同
なるほど、かえってね。
力武
確かに依存症の方は研究熱心ですよね。
中村
だから、自分は依存症じゃないと思うんです。
加藤
なるほど。そうするとギャンブル依存症になる人は必ずいつか自分は勝つんだと思って、依存症にならない人は負けたら、負けたと思うらしいのですが、そういうことですか?
中村
パーラーで働いている人は俺は負けるわけないよと思う。パチンコについてこれだけ分かっているよ、ということは、まさにおれは負けるわけないよと。でも、少し負けたら深追いするじゃないですか。いやこんなはずじゃない取り返してやる、となって、気が付いたら抜けられなくなってるけれども、一方では俺はいつも負けてるお客さんを見てるからあんなバカにはならないよと思っている。
本誌
でもその時点で…。
中村
抜け出せなくなってることに本人は気付かない。私も10数年ギャンブルをやっていましたが、自分の意思でやめられないとは最後の最後まで思いませんでした。
力武
会社にもそこは見えない。
中村
見えないと思います。
加藤
今のその説明を聞くと、日本人は本当にギャンブル依存症になりやすいね。執着性格といって、それは取返すことに熱心で失ったものに対する執着ですよね。戦後日本が何で発展してきたかというと、あれだけの経済があったのを失ってそれを取り返そうということでみんな必死にがんばった。執着性格がうつ病の病前性格だと言われてるんですが、執着性格というのは真面目なんです。だから、ギャンブル依存症にならない人は負けたところであっさり諦めているけれども、依存症になる人はいつか俺は勝つんだと信じてやっている。今の説明を聞いて、日本人の執着性格から考えると簡単には諦められないですからね。いずれにせよ、あぁ楽しかったと思える人がギャンブルを楽しめる人です。ところが依存症になる人は5万円に対する執着ですよね。
米田
ということは、パチンコに触れる機会の多い社員を研修していくことはすごく大事やなぁ。
中村
大事だと思いますね。
米田
研究会の議論ではそこまでいくと反対に上の空になって仕事ができないだろうなという意見が出たんですが、そこは認識を改める必要がありそうですね。
中村
「ワンデーポート」に相談される方は、ほとんどがきちんと仕事をされていますよ。しかも、一流企業であったり、公務員であったり、先生と呼ばれる職業であったりすることは少なくありません。
米田
前にも研究会で言ったんですが、私の家内の姉が看護婦をしているんですよ。で、手術などで神経がやはり研ぎ澄まされる。その中で仕事が終わってから、先生もひっくるめてパーラーに行って一生懸命パチンコをする。例え30分から1時間でもストレスを発散する。これはストレス発散で依存症ではないですけども、これが高じて依存症というような格好になるんですかね。
加藤
アメリカはヘロイン依存症問題で非常に苦労してる。そのヘロイン依存症になる人が、「ベスト&ブライテスト」といわれる最優秀者であることも多いわけです。なぜヘロイン依存症になるかというと「ベスト&ブライテスト」という地位を得ることが、米田さんが言ったものすごいストレスになる。このストレスに負けて、つい薬物が手に入りやすいから手を出してしまう。そういう人たちも依存症になることを考えれば、ストレスの発散が高じてのめり込んでしまうケースも完全には否定できないと思いますよ。
力武
ところで先ほどの従業員の依存症対策についてですが、私の会社では従業員向けに小冊子を作ってまして、これが経営理念を分かりやすく噛み砕いて書いたもので、この中に「私達はパチンコという娯楽の楽しさも怖さも知っています。自分自身がパチンコをする際ものめり込みに気をつけます」という一文を載せています。
本誌
この小冊子はいつからあるんですか。
力武
これは1年前くらいですね。やはり従業員の依存症対策は大切だなということをギャンブル依存症問題の活動の中で知りまして、それから作りました。
本誌
ところでこの依存症問題につきましては、社会一般にまだまだ偏見が多いのが実情だというご指摘が先ほどから聞かれていますが、もしこの問題を根本的に解決に繋げようとするなら、業界の努力のみのとどまらず、社会の理解が不可欠になるように思われますが、加藤教授はその辺についてどのようにお考えですか。
加藤
この問題に関した講演の後に受講生から「依存症を解決するにはどうしたらいいですか」と言われました。そのときに、パチンコ業界だけで頑張るというよりも日本全体がもっとストレスの少ない社会にならないと難しいのでは、ということを言いました。この場はギャンブル依存症ですけど、ほかの依存症にはアルコール依存症や買い物依存症などの問題があるわけです。

ですから日本全体として依存症の問題を考えなくてはいけない。日本の社会がいろいろな問題を抱えているわけですから、ギャンブル依存症についてパチンコ業界が積極的に取り組むことには、私は大変な意義があると思います。マイナスに作用することを恐れずにむしろ積極的に取り上げて依存症というものの啓蒙活動をして、こういう問題が社会にあるんだということを知らしめていくべきでしょう。そういう業界の自発的な努力がいずれは社会一般にも評価され、ギャンブル依存症に対する理解も進むのではないかと思います。
本誌
米田副座長、例えばですね、ギャンブル依存症の自助グループとしてGAがありますけど、そういった施設ですとか、アルコール依存症ではAA(アルコホリックス・アノニマス)があります。要するに広く依存症という視点で他の罹患状況について詳しい専門家の期間と今後話し合いを持つとかそういった議論は今のところ研究会では出てないのですか?
米田
少しは出ていますが、まだ、煮詰まっていません。
力武
考えてみれば、アルコール依存症もギャンブル依存症も、状況はまさに一緒。これだという対策はいまだ見つかっていません。ただ、やはり私たちが取り組むべきはギャンブル依存症ですから、その場合でもまずギャンブル依存症に携わる専門機関との話し合いが優先されるだろうと思います。決定的な解決方法がみつかっていませんから、今後対策を練るうえでも他の依存症機関と接点を持つことは重要かも知れませんね。
米田
例えば実際のギャンブルとして国や県が運営している競馬や競艇などがありますね。ただし、実際に依存症者に対してケアが出来ているかというとそうではない。その中でパチンコ業界が立ち上がろうとしているわけです。ただ、現在の研究会は手探りの状態ですが、幸いなことに力武さんに入ってもらいかなり情報と理解が得られてきた。

全日遊連の理事というのは各県から代表で出てきているわけですが、その時には理事会に専務理事も参与も一緒に出てきてますから、彼らにどれだけ正しく認識していただくかが最大の課題になると思います。各県にも理事が戻ったときに正しく説明するためにも、この点は極めて重要になると思います。それができていないと難しいですよね。力武さんに自分の経験からのお話を理事会でしていただき、それから組合員ならびにファンのアンケート調査を見てもらい、そのうえで業界内の啓蒙活動からまずはやって行こうとしているわけです。
本誌
ギャンブル依存症の現状を正しく認識してもらうことが先決だと。
米田
そうです。正しい認識が根底にないとマイナスな点が多々出てくる恐れがあります。途中で挫折してはいけないですから、まずは正しく認識してもらいそれをいかに広めていくか。その点に立脚したうえで、依存症の方に業界としてどのような形で接していけばいいのかについても具体的に道筋を示すことが研究会の役割だと考えています。

いずれにせよ、最終的にはそういう所まで行かないと、せっかく議論をしてアンケート調査をして自己満足だけで終わってしまったのでは何のケアにもならない。また、先ほどから言われているようにそこまで理解されてくると依存症になる前の警告の仕方も上手いアイディアが出てくることが期待されると思います。この病気は一度罹患してしまうとなかなか治らない。そうなる前になんとか注意信号を出したい。これはなかなか口で言うのは易しいけど難しいでしょう。でもいろいろな知恵を出すことによって、何かファンに対しての啓蒙の仕方もあるかと思います。
本誌
うちで「ワンデーポート」のポスターを看板に貼ってますね。それと「ワンデーポート」のパンフレットを店舗に置いてます。これを見られたファンの方というのはこういう病気が存在するんだということで、自分の自制心というものが働くと思うんです。ギャンブル依存症はギャンブルに対して無力であるというところから回復が始まるんです。自分ではもうどうしようもないという認識から。

ご本人が認識される?
力武
そうです。自分はまだ大丈夫だと思っているうちは依存症としての回復はないんです。ぎりぎりのところまで行った時に「ワンデーポート」の相談電話の番号を思い出してもらえれば救えるということだと思います。九州では現在、九遊連の青年部を中心に約20店舗がこのポスターを貼っていますが、貼っているパーラーは非常にお客様に評判はいいということです。拒否反応をされるファンはまずいません。
本誌
その辺は今後の啓蒙活動では絶対に強調されて行かれるべき点ですよね。
力武
そうですね。
本誌
中村さんはこの問題に業界がどう関わっていくのが一番理想的だと思われますか。
中村
人間だから逸脱することもある。だからポスターを掲示しても患者は出てくるでしょう。ただ、アメリカでは相談できる場所を掲示して、回復への道があるんだというのを示しているわけです。本当に困っている人たちが行く道があるということはすごく必要だと思います。

私は依存症本人として依存症罹患者に希望を捨てずに更生できる施設をもっと多く作ってもらうことを希望しています。依存症罹患者は年々増える一方です。

例えば「ワンデーポート」が3年前に設立した当初は問い合わせはほとんどなかったんですが、その後、新聞に出るなどして今はいっぱいになったんです。現在は2人のスタッフがいて、定員15人の寮が一杯になったんです。そうすると「ワンデーポート」みたいな施設を各地域に作っていかないと、業界側がいくらポスターを貼っても受け入れ先がなかったら案内できないと思います。この間行ったアメリカのNPOが昨年の8月に新しい施設を作ったんですけど、カジノが60%を出資して作っている。残りは州が出したと聞いています。
本誌
40%は州からの出資ですか?
中村
そうです。一昨年に行った「へーデルセン」という施設では、コカ・コーラの名前が冠にある建物があって、ここはコカ・コーラの出資で作ってるんですよ。ヘルプラインにしてもそうだと思いますけど、ハードの面は業界が支援してくれるとスムーズにそういう施設が立ち上がって行くんではないかと感じます。運営費は業界側が出してそこで働く人はあくまで中立性がある人というぐあいに…。
本誌
一方で依存症の治療にはカウンセリングが不可欠だと思われますが、日本の場合、そういう方への国からの支援とかはあるんですか?ギャンブル依存症に限定してですが。
中村
ないです。「ワンデーポート」の15年度の予算が年間2000万円です。その内訳は神奈川県からの協同事業(編集部注:かながわボランタリー活動推進基金21)で約860万円。中央共同募金から320万円。あとは利用者からの費用がだいたい300万円くらいです。あとは力武さんやパチンコ業界の方、依存症罹患者の家族や個人的に関心を持ってくれてる方の献金が500万円くらいとなっています。それでも足りていないのが現状です。本当は今の時点でスタッフがあと2人くらいいて4人体制にならないと十分なケアはできないのは明らかなんですが、それにはお金が足りなくて難しい状況なのです。そういう足りない部分を業界がサポートしてくれるとありがたいなと思います。それくらい、社会に理解がないのが現状です。神奈川県から協同事業で1000万円近くのお金が出ても5年間の限定です。「ワンデーポート」がどういう方向性で定期的に大きい補助金をもらっていくかというのは今一番大きな課題となっています。
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