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負の部分から
目をそらすな
ギャンブルの依存症を考える。

(アミューズメント・ジャパンより)

日本におけるギャンブル依存症だといわれている業界自身が
パチンコ産業の負の部分をどうケアしていくかが、いま問われている。

 4月11日、大分市内で「これからのパチンコ業界を考える」と題したセミナーが開催された。主催したのは大分県遊協青年部。このセミナーでは、テーマのひとつにギャンブル依存症の問題が取り上げられた。業界団体が主催するセミナーとしてはおそらくはじめてのことだ。セミナーは今号で前出ししている岩崎メンタルクリニック院長の岩崎正人さんと、ワンデーポートの中村努さんの講演という形で行われた。

 このセミナーを組合に働きかけたのは青年部長を務める力武一郎さん(38)だった。力武さんは『セントラルパーク』の屋号で大分市内で2店舗を経営するセントラル カンパニーの社長でもある。力武さんがギャンブル依存症に関心をはじめたのは、一枚のハガキからだった。

見逃せなかったハガキ

 セントラルパークでは、ホールの思いをお客様に伝えるために『CPの気持ち』というA5版の小冊子を発行している。店内のご意見箱や社長直通電話を通して寄せられたファンの意見に、Q&Aで答える形で構成されている。その『CPの気持ち』の2001年版に、件のハガキが直筆のまま転写されている。内容はこうだ。

 「一日で年金を取られた。今日から水で食事。こんな苦しい切ない生活、ひどい……。毎日何万円か取られる。借金もする、楽しくない、苦しい。社会から追放する運動始める。泣いている市民を救済して、小さな幸せを取り戻そう。貧しい人たちから金を取って、経営者は笑って、良い生活をしているのでしょう」

 店内に「ご意見箱」などを設置しているホールなら、こうした内容の「逆恨み」の苦情が少なからずあるはずだ。一部の人たちの話だと割り切ることも必要なのかもしれない。でも、力武さんには看過できなかった。

 「いまのパチンコ自体がいびつな形で商売をしているという負い目みたいなものがありました。いまの機械は以前のように射幸性が選べません。お客様は無理をして打っているなという気持ちがありました。これはなんとかしなくてはいけないと感じていたんです」

 パチンコで借金して強盗に入った。熱中症で子供が亡くなった。こうした報道をみるたびに、「これは依存症じゃないか」という漠然とした思いがあった。

 そのハガキをきっかけに、力武さんはギャンブル依存症に関心を持つようになった。勉強をしてGAの活動を知った。県の福祉センターに電話をすると、GAの活動は大分にないことがわかった。

 なんとかGA活動を支援できないかと、力武さんは活動をはじめた。ただ、後述するが、GAは寄付を一切受け付けない。そんなとき、GAからワンデーポートを紹介された。ワンデーポートは寄付を受け付けている。

 力武さんはワンデーポートの中村さんに連絡を取り、自分の思いを話した。そして、ワンデーポートのポスターを貼る許可を得た。困った時の連絡先を記したものだ。ホールでポスターを見たお客様がワンデーポートに電話するというシステムが、立ち上がった。

 これまでにこのポスターを見て、2人がワンデーポートに電話をしている。そのうちのひとりは重度のパチンコ依存症と思われた。「横浜にきませんか?」と中村さんが問いかけたが、まだワンダーポートには来ていない。
 力武さんは、中村さんとこんな話をするという。

 「依存症患者は最後の最後まで自分は大丈夫という思いがあります。だから、もう自殺するかという最後の最後にポスターのことをパッと思い出してくれればいいんです。それで中村さんのところに電話していただければ、命の電話ということになります。そういう形で活動を広めていきたいと思っています」

依存患者者は200万人!?

 力武さんがホールにポスターを掲示してから約1年。その間にワンデーポートに連絡を取った人が2名。この現実は、実はとてつもなく深刻な事態が進行しているというサインでもある。仮に1ホールに2名のギャンブル依存症患者がいるとすれば、全国1万6000ホールとして、単純計算で3万2000人の患者がいる計算になる。それは、電話をかけるような深刻な状況に追い込まれた重度の患者の数に過ぎない。そこまでに至らない潜在的な患者数はその何十倍もいるはずだ。

 そもそもギャンブル依存症とはどういうものなのか。今号では断片的に触れてきたが、ここで少しまとめてみたい。

 ギャンブル依存症については、エース総合研究所が1999年に発行した報告書『米国におけるギャンブル依存症の実態に関する調査』が詳しい。米国での事例研究が主だが、それは日本においてもまったくそのままであてはまる。

 同書では冒頭、「米国におけるギャンブル依存症の研究・取り組みは進んでいるが、これは他の国と比較してのことであり、米国においても現時点ではまだ途上にあり、統一的な解釈は不在だ」と指摘したうえで、ギャンブル依存症をつぎのように定義づけている。

 「ギャンブル依存症とは、ギャンブラー本人、家庭、職場及び職業、地域社会に損失を与えるあらゆるギャンブル行為のことをいう」

 しかし、実際には何をもってギャンブル依存症と判定するかは大きな問題のひとつだ。本人の自覚症状が希薄な場合や、外見からの判別が困難であることが背景にある。

 WHO(世界保健機構)では、1991年に『国際疾病分類』第10版で、病理的ギャンブル依存症についての診察ガイドラインを次のように示した。

  • 持続的に繰り返される賭博。
  • 貧困になる、家族関係が損なわれる、そして個人的生活が崩壊するなどの不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、増強する。

 日本におけるギャンブル依存症の患者数に正確な統計はない。米国においては多数の調査が行われており、同書では米国における罹患率(ギャンブル依存症を患う患者の割合)は18歳以上人口のおよそ2~3%と結論づけている(ただし、いずれの調査もサンプル数や抽出方法に問題があるとしている)

 これを日本にあてはめると、18歳以上人口が1億人として、2%で200万人、3%で300万人という驚くべき数字になる。

米国における取り組み

 次に、同書で紹介されているギャンブル依存症に対する取り組みを見ていきたい。

 まずギャンブラーズ・アノニマス(GA)について。これまでにも何度も出てきた名称だが、ここでは、組織としての性格について示しておく。

 GAには基本的な4つの哲学がある。

 まず「匿名性」だ。アノニマスは「匿名の」を意味する形容詞。GAでは「どこの、誰が」ということは一切問題にされない。ミーティングでも互いにニックネームで呼び合い、互いに本名を知らないケースも多いという。経験と希望と力をわかちあい、ギャンブル依存症という共通の問題を解決することが目標だからだ。メンバーの資格はギャンブル依存症を克服したいという希望をもっていること。入会金も会費も不要で、GAは匿名の一人ひとりの献金によって運営される。

 次に「無思想」。GAではその目的と関係のない価値観を持ち込んではならない。ギャンブルをやめるという目的とは関係のない一切の考えから開放されなくてはならない。

 次に「賭けはしない」。当たり前のことだが、宝くじやバー・ベット(酒場などで些細なことにビールを一杯かけるなど)といったどんな小さな賭けにも一切手を出してはならない。

 最後に「嘘をつかない」。嘘はギャンブル行為を隠すことに通じる。ギャンブル行為の有無にかかわらず、ミーティングの場をはじめ、生活のあらゆる場においても嘘をついてはならない。

 この4つの哲学を知ると、GAという共同体の性格がよく理解できるだろう。

 GAのような自助グループの他に、米国では公的機関による活動も行われている。その代表的な機関が「全米ギャンブル依存症対策審議会(The National Council on Problem Gambling and Affiliated State Council)」だ。民間企業から多くの活動資金を受けているが、れっきとした政府関連の全国組織期間である。同審議会及び下部組織である州支部審議会の活動内容には、問題意識の啓蒙、一般への教育、カウンセラー免許資格取得向け職業訓練、ギャンブル依存症研究支援などがあるが、同審議会自身が依存症患者に対して治療行為などをすることはない。

 一方で、同審議会は、カジノ経営企業ハーラーズ・エンターテイメント社とAT&T(米国電信電話会社)の協力を得て、24時間体勢の無料電話相談制度『ヘルプ・ライン』を開設し、ギャンブル依存症に関する情報の提供や援助の求めに対する支援を行っている。

 ヘルプ・ラインでは、電話相談の内容はすべて極秘とされている。ここでは訓練を受けたカウンセラーから相談者の状況に合った助言が得られるだけでなく、GAやギャマノン(依存症者の家族の自助グループ)、その他の治療機関の紹介や依頼も行っている。

 一般大衆を対象とした啓蒙活動も同審議会の主要な活動だ。公共広告サービスがそのひとつで、カジノホテル内専用チャンネルといった媒体を利用して広告活動が行われている。広告内容はギャンブルの楽しさを認めた上で過度な遊び方の危険性を指摘するもので、ギャンブル産業と一般大衆との共存への配慮が感じられる。あるカジノホテルで製作された広告内容はこんな内容だ。

(回転するスロットマシンが止まる場面が映し出される)

(ナレーション)
「ギャンブルは本当に楽しい。でも切り上げて家に帰る時をわきまえないと、仕事、家、家族さえも失うことになる。賢い賭けをしろ! 切り上げる時を決めてからプレイをはじめろ!」

(続いて以下のキャッチフレーズが大映しになる)
「ギャンブルに悩んでいる?それならヘルプ・ライン。電話番号○○○まで!」

  

啓蒙活動に力を入れる米カジノ企業

 米国では、カジノ企業がギャンブル依存症に対して真剣に取り組んでいる例が多い。ゲーミング産業自体が、ギャンブル依存症が企業と公共福祉の双方にとって公認の重要問題であるという認識を深めつつある。

 ギャンブル依存症に取り組むカジノ企業では、ギャンブル依存症に対する方針をガイドラインとして社内で文章化している。これらのガイドラインは、主に企業理念と従業員への啓蒙、教育に分かれている。おおむね以下のような内容が列挙されている。

・ アンダーエイジ・ギャンブリング防止の徹底。
・ ギャンブル依存症が社会問題であるとの認識の徹底。
・ 国や地方で行われるプログラムへの積極参加の奨励。
・ 従業員、顧客を問わず、ギャンブル依存症患者を識別できるような継続的訓練プログラムの徹底。

 ギャンブル依存症対策として、多くのカジノ企業で重視しているのは、ギャンブル依存症に対する従業員教育の徹底だ。従業員の意識啓蒙のために従業員休憩室にヘルプ・ラインの番号を記した啓蒙ポスターを掲示したり、社内広報誌に掲載する。関連パンフレットを給与に同封したり、啓蒙週間のようなイベントを行う企業もある。

 顧客を直接援助する訓練も盛んだ。

 主任クラスは依存症者援助も任務のひとつとなるケースが多い。彼らは明確な手順に従った専門的訓練を受け、権限を持たされる。たとえば、ゲームに熱くなっている客がいたら、さりげなく「コーヒーでもどうですか」と声をかけてテーブルから離し、客を落ち着かせるといったプログラムである。

 米国では、アンダーエイジ・ギャンブリングの防止活動も盛んだ。これには制限年齢以下のギャンブル(制限年齢は州によって異なる)が厳格に禁止されているという背景もある。発覚した場合は、カジノ自身が営業停止などの処分を受ける。それだけではなく、若年層のギャンブルが、将来ギャンブル依存症につながりやすいという認識もある。制限年齢基準の順守は、大きな依存症対策でもあるのだ。  アンダーエイジ・ギャンブリング対策として有名なのが、先のハーラーズ・エンターテインメント社を中心としたカジノ企業による「プロジェクト21」だ。1989年にハ社がアトランティックシティを皮切りにこのプロジェクトを開始した。

 プロジェクトの主眼は、カジノの全従業員に対して、カジノ内の未成年客を見分ける訓練を実施することにある。ハ社では、全従業員に対して、未成年者に警戒し、法廷年齢未満の客である疑いがある場合は、身分証明書の提示を求める職権を与えている。

 米国のカジノ企業が従業員に対するギャンブル依存症の啓蒙、教育活動を行うもうひとつの大きな理由は、従業員自身が依存症になる恐れが大きいことにある。

 従業員教育の問題はパチンコ業界にとっても他人事ではない。先の大分での講演では、岩崎さんもこの問題に警鐘を鳴らしている。

 「パチンコホールの従業員の方で、ギャンブル依存症者が実はたくさんいます。おそらく割合で言うと、一般人口より大変多いと感じています。

 岩崎さんのクリニックに相談に来る人で、お金もない、仕事もない、そこで、自分に一番身近なパチンコ店の従業員になってとりあえずしのいでいるという患者は少なくない。逆に、ホールで働いているうちに、ギャンブルに対するハードルが低くなり、依存症にしんてんするというケースもある。

 仮にパチンコ依存症の従業員がいたとすれば、外部の人間にそそのかされて、お金ほしさに不正行為にはしってしまうことは決して考えられないことではない。経営者がギャンブル依存症に関する正しい知識を従業員に与えることは、こうした不幸を防ぐことにもつながる。

ホールになにができるか?

 「企業としてきちんと儲けると同時に、社会的責任にも目を向けていきながら、それぞれが繁栄していかなければならない。そのためにも、業界のリーダーのみなさんに、ディフェンスの部分である依存症に理解を深めていただき、のめり込みを減らすために努力していただきたい」

 岩崎さんは大分での講演をこう締めくくった。

 ギャンブル依存症の問題はパチンコ業界にとって「負の部分」といえる。これを表に出すことは業界のために逆効果だという意見も業界内には少なからずある。だが、この問題を放置しておくことが業界にとって得策だと、誰が言い切れるだろうか。

 昨年4月、NHK熊本放送局が「九州沖縄一本勝負」というコーナーで、『パチンコがやめられない~急増するパチンコ依存症の実態』という番組を放映した。番組では、96年をピークに減少する業界の市場規模に反比例して、ひとりあたりの消費金額が右肩上がりで増加しているデータを紹介した。減少するパチンコファンのなかで、残っているパチンコ愛好者は確実に大きな負担を強いられている。

 番組内では、全日遊連の山田茂則理事長が「手軽で気軽にできるような機種を設置することが業界を守ることにもつながる。依存症のひとつの解決にもなるのではないか」とインタビューに答えた。

 間接的には機械の問題も依存症解決のひとつの方法だろう。だがそれだけでは根本的な解決にはならない。

酒造メーカーのサントリーでは、1991年に「ARP(アルコール関連問題)委員会」を社内に設置し、「適正飲酒」を啓蒙している。アルコール依存症やイッキ飲みによる事故などの防止がその目的だ。1986年から実施している。「モデレーションキャンペーン」は、企業活動として高い評価を受けている。

 他の酒造メーカーでも適正飲酒に関するなんらかの啓蒙活動は行っているし、タバコメーカーも「健康を損なう恐れがある」ことをきちんと説明している。

 『米国におけるギャンブル依存症の実態に関する調査』の執筆を通して、米国におけるギャンブル依存症の実態を研究したエース総研シニアコンサルタントの竹取裕樹さんは、「ホールや業界ができることは限られている。必要以上のことはやらなくてもいいし、やる必要もないでしょう」と前置きしたうえで、「日本では、依存症が病気で、苦しんでいる方がいるんだと正確に認識している人はほとんどいないでしょう。だからこそ、困った人がいたときに、ホールのスタッフが自然に対応できたり、情報を教えてあげられるというレベルは、最低でも必要ではないでしょうか」と提言する。

 先の力武さんはこんな見方をしている。

 「カジノ問題が議論されるときに、私たちのグレーの部分である換金問題などと同時に、ギャンブル依存症の問題など負の部分が議論されることになるだろう。そのときに、私たちは、本当にパチンコは素晴らしい産業であると胸をはって言えるのだろうか」

 力武さんはいま、大分県遊協や九遊連で、青年部を中心にギャンブル依存症対策の啓蒙活動を広げ始めている。

 「店内にポスターをはって、ワンデーポートさんに電話がいくという活動が広がっていくと、ワンデーポートさんでも対処できなくなるでしょう。その先は、アメリカのヘルプ・ラインのような機関をつくっていきたい。アメリカでは公的機関ですが、日本ではそうはいかないので、私たち民間が主導で立ち上げていきたい。そんな将来像を描いています」

 力武さんの活動に理解を示した10店舗ほどの九州のホールが、いま店内に「適正遊戯」のポスターを掲示している。

「情熱リーグCP篇」