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ギャンブル依存症に対する社会的責任の自覚を

(岩崎メンタルクリニック院長 岩崎正人さんインタビュー/アミューズメント・ジャパンより)

 ギャンブル依存症を病気としてとらえ、数多くの患者と接してきた精神科医で岩崎メンタルクリニック院長の岩崎正人さん。欧米では一般的な考え方として定着しているギャンブル依存症を、日本において長年にわたって見てきた岩崎さんに、ギャンブル依存症の現状とパチンコ業界への提言を聞いた。

ギャンブル依存症はまだ目新しい言葉という印象もあるのですが、
精神科医の間ではいつ頃から認識されるようになったのでしょうか?

 精神医学の分野では以前からある概念で、国際的な診断基準では「病的賭博」と呼ばれています。日本でギャンブル依存症という言葉が注目されるようになったのはいまから5、6年前、1996年頃のことです。駐車場の車内に子どもを寝かせたままパチンコに熱中し、子どもを死なせてしまった。あるいはパチンコをするために消費者金融から借りすぎたためにカード破産した。そうした事故や事件が大きな社会問題となりました。

 当時、私は都立の精神保健センターというところに勤務していたのですが、「どうしたらパチンコをやめさせることができるか」という相談が増えてきたのです。本人が来るケースはまれで、大半が家族からのものでした。こうしたパチンコをめぐるさまざまな問題が表面化したために、ギャンブル依存症という言葉が定着したのですが、概念からいえばパチンコ依存症はギャンブル依存症の下位概念です。

 ギャンブル依存症にはパチンコ、麻雀、競馬、競輪……といろいろな種類が存在します。しかし、現実にはパチンコ(パチスロを含める)依存症患者が最も多いのです。

他のギャンブルと比較して、パチンコ依存症に特徴的なことはありますか?

 ハマってやめられなくなるという意味では、どのギャンブルも同じです。
 ただ、パチンコの場合は他のギャンブルに比べて女性の占める割合が高いことが大きな特色です。パチンコには、エプロン姿にサンダル履きでいけるという手軽さがあります。いちばん敷居が低く、簡単に手を出せるギャンブルといえます。

 女性のギャンブル依存症患者に特徴的な点は、夫なり恋人なり、パートナーも依存症であることが多いことです。パートナーである男性から手ほどきを受け、そのままギャンブルにハマってしまうのです。それ以外では、男性の酒癖が悪かったり、暴力による虐待を受け、そこからギャンブルに逃げ込むというケースも少なくありません。

 依存症患者の年齢分布で見ると、女性のギャンブル依存症は二峰性であることも大きな特色です。ひとつは30代で、この層の中心は子育てが一段落した主婦だと推測できます。時間に余裕が生まれたのに夫が振り向いてくれない。その反動でパチンコにハマってしまうというケースです。もうひとつのピークは10代後半から20代前半にかけて。高校を卒業して社会に出る、あるいは進学の機会に何かにつまずいて、それをきっかけにパチンコに手を出すようになる。このケースは、パチンコばかりでなく、過食や拒食、あるいはアルコールなど、さまざまな依存が考えられ、さらにそれらが複合していることも珍しくありません。

 これに対して、男性では年齢の分布に偏りがなく平均しています。ただし、最近は大学生の割合が急増しています。こうした比較的若い層は、早い段階で専門家に相談することが大事です。また、中年層であれば、家族の誰かが気づいてSOSを発信できる。しかし、それ以上の年齢層になると、社会からすでにドロップアウトしている可能性がある。こうなると医療の網にかかることはなくなるので、正確な患者数を把握することはきわめて難しいのです。

ギャンブル依存症の患者は、実際には増加しているのでしょうか?

 ギャンブル依存症が増えているのかというと、はっきりそうと断定することはできないのです。
 いま申し上げたように、正確な患者数を把握することが難しいからです。ただ、私のところに相談に来るケースは確実に増えています。つまり、劇的に増加しているわけではないが、少しずつ、確実に増えている。そう考えて間違いないでしょう。

 社会的背景としては、団塊の世代の時代に核家族化が進み、家族構成が小さくなっていたことが挙げられると思います。対人関係が苦手な子どもたちは、成人してからもパソコンやゲームに熱中します。対人関係に気を遣うよりも、ゲームという小さな世界で王様として君臨するほうがずっと心地がいい。これがハマるという現象です。

 つまり何かで行き詰まった人たちが逃げ込む先が、依存なのです。ギャンブル依存症になる人たちは、ある意味で対人関係が苦手な人が多いのが特徴です。お酒の飲める人はアルコールに手を出すし、異性との関係でストレスを解消する人たちもいます。これに対し、ギャンブル依存症の人たちはお酒が飲めなかったり、異性と上手に付き合えない人が多い。その結果、ひたすら自分の内側にこもるのです。普通の人々は、他の人と接しておしゃべりすることを楽しみ、それを有効な時間と考えます。それに対してこういう人たちは、他人と接することで傷つき、それが心の負担となるのです。そうしてどんどん自分の殻に閉じこもり、自分の存在を確認するために何かに依存しなくてはならなくなってしまうのです。

パチンコ依存症やギャンブル依存症ばかりが注目されていますが、
ほかにもさまざまな依存症があるのですね。

 おっしゃるとおりです。たとえば、一日のほとんどをゲームセンターで過ごす少年は明らかにゲームセンター依存症です。ギャンブル依存症がことさらクローズアップされたのは、最初にお話ししたようにパチンコに伴う事件や事故が多発したからです。普段、表面には現れないだけで、さまざまな事象に対する依存が増えていることは間違いありません。

 精神医学の分野では、依存症を3つに分類しています。まず、第一は物質的な依存で、これはタバコやアルコール、薬物への依存です。第二はプロセスに対する依存で、ある行動を繰り返しているうちにそれにハマってしまうというものです。ギャンブル依存症が代表的なものですが、このほかにも仕事や買い物などがあります。そして第三が人間関係への依存で、これは「共依存」と呼ばれます。たとえば、夫からひどい虐待を受けているのに別れられない妻。「私を必要としているから」とか「私がいないとダメになる」というのがその理由ですが、明らかに不適当な人間関係であるにもかかわらずそこから抜け出すことができない。これは相手の存在に依存しているからです。あるいは、ちょっとしたことでもしょっちゅうメールのやりとりをしている子どもたちがいますが、これも共依存です。濃厚で密接な人間関係がないと不安になる。そうした関係のなかでしか自己の存在を確認できないのです。

ギャンブル依存症にはどのような治療が有効なのでしょうか?

 依存症はたいへん治療が難しい病気です。その最大の理由は、患者自身が、自分が病気であることを認めようとしないことです。少しは異常だという自覚はあっても、まだ自分でコントロールできると考えてしまう。アルコール依存も、この点はまったく同じです。さらに、ギャンブル依存症の場合は、消費者金融などに多額の借金が多いという、やっかいな問題もあります。ところが依存症になった患者は、この借金に対しても一発逆転で取り返すことができると考えてしまうのです。

 アルコール依存症の治療には、患者同士が集まって互いの体験を告白し合う集団治療が有効です。アメリカではAA(アルコホリックス・アノニマス)というアルコール依存症患者による自主的な団体が組織され、これとまったく同じ考えから、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)という組織が生まれました。同様の組織は日本でも活動しています。GAはギャンブル依存症患者によって自主的に運営されている組織で、全国各地で活動しています。ギャンブル依存を治すには、このGAに参加するのが唯一の方法です。そして、治るかどうかは、そこで地道な努力が継続できるか否かにかかっています。依存症の治療はたいへん難しいのですが、努力すれば必ず回復する病気です。GAに参加することが有効である理由は次の3点に集約できます。一般に依存症患者は、依存する対象がほかのものへとシフトしていく傾向があります。たとえば、アルコール依存症が治ったとたんにギャンブル依存症になる、というケースは珍しくありません。ならば、頭のなかをGA漬けにして、GA依存にしてやればいい。これが第一の理由です。

 第二は、同じ境遇の仲間同士が集まって互いの体験や心境を告白し合うことによって生じる安心感です。ギャンブル依存症患者の多くは人付き合いが下手で、内にこもり、ストレスをため込みがちです。ところが同じもの同士が集まることによって、次第に心を開き、自分だけがダメなのではないことに気づくのです。

 第三の理由は、目標に出会うことによって回復を信じられることにあります。GAには自らギャンブル依存になりそこから立ち直った先輩がいます。その成功例を目標にすることで、自身の回復を信じることができるのです。いずれにしても、ダメなのが自分だけではないことを知り、自分を理解してくれる仲間にであう。これが何より大きな力になるのです。

ギャンブル依存症に対して、パチンコ業界はどのように対処していくことが望まれますか?

 すぐにでもしていただきたいことは、パチンコホールから未成年者を確実に排除することです。その上で、ギャンブル依存症の問題に業界がどう取り組むべきか、それに対してわれわれ医療サイドがどのように協力していけるのか。そうした事柄を話し合う機会を早急に持たなくてはならないと思います。ギャンブル依存というのは所詮は個人の責任ですが、たとえそうであったにしても業界が果たすべき役割もあるはすです。

 その第一歩は情報の提供です。健全な人への呼びかけとしては、ホール内にポスターを貼ることも有効でしょう。タバコのパッケージに「健康には有害である」と表示してあるのと同じです。個々のホールごとにカウンセラーを置くことは非現実的ですが、少なくとも自分から相談に来た人に対して医療機関を紹介するなどの情報提供は行うべきでしょう。アルコール依存の問題では、サントリーやキリンビールなどがキャンペーンを展開するなど、メーカーの責任として積極的に取り組んでいます。ギャンブル依存もまってく同じです。業界や企業がこの問題に真剣に取り組むことが、社会的責任を果たすことにつながるのです。

いわさき・まさんど
日本医科大学卒業後、同大学精神医学教室助手、国立療養所久里浜病院科精神科医員、都立松沢病院精神科医員、日本医科大学講師、東京都立中部総合精神保険福祉センター広報援助課長、東京都衛生局医療福祉部精神保健福祉課長。1990年から岩崎メンタルクリニック(神奈川県藤沢市)院長。我が国におけるギャンブル依存症研究の第一人者。著者に「今の私は仮の姿~平成パチンコ症候群」(集英社)などがある。

「情熱リーグCP篇」